ハイヒール

       
　「この溝蓋って　いやだなあ　
　　ウシさんやシカさんでなくても　ネコだってはまると怪我しそう
　な気がする　
　　近頃のお姉さんは　ハイヒールなんて　はかないのかなあ　」

オトウサン

       
　昔　お寺の墓場に　近くの家に飼われているらしいオスの赤猫がよく遊びに来ていました　　三歳くらいの若いネコで　冬には　日向ぼっこをする姿が　よく見られました　
　ところが　ある日突然に置き猫されてしまったのです
　それでも　野良猫で同じ赤虎の才女を得て　たくましく暮らしておりました　　私は彼を「オトウサン」と呼んでいました
　そこへ　幸か不幸か　やたらと餌をくれる「餌撒きおばちゃん」が来るようになり　　赤猫達は増えて十頭を超えるところまで行きました　　あまりのことにNPOが入って全個体に避妊手術をし　餌を与えて管理することを始めました
　落ち着いたところでネコの群れは八頭になり　オトウサンがリーダーを務めていました　　八頭近い赤猫達が日向ぼっこをする姿や　NPOの人が来る時刻になるとお堂の縁に並んで待つ姿が見られました　
　赤猫達は人目に触れることが多くなり　元飼い猫のオトウサンに里親を希望する方が現れました　　事情をよく理解して下さる人であったので　オトウサンは彼のお気に入りの若メスとセットでもらわれて行きました　
　オトウサンなきあと群れは求心力を失い　お堂の番ネコのような一頭を残して　それぞれがばらばらに行動するようになり　餌をもらえる時間にだけもどってくるようになりました　　ネコの群れのリーダーは　ボスでも飾りでもなかったようです

松の木さん

   
「夏も冬も　変わらぬ濃い緑で　松の木さんはありがたいね　
　少々チクチクするけど　風通しは好いし　昼寝には最高　」

あの夏の日

               
　「器量よしの娘でした」と言うのは　親の欲目でしょうか

　こちらの言うことが　よく分かる　　賢い子でした　
　自分の言いたいことを　表現するのが上手な　　賢い子でした
　良い里親が見つかれば　　と思っていた矢先のこと　
　　車にはねられて　逝ってしまいました　

　言ってみたとて仕方のない話なのですが　季節が訪れると　
　　　つい思い出してしまいます

大丈夫か

  
 だいじょうぶか？
「大丈夫じゃない 」
　木陰へ行けよ　運んでやろうか　
「俺に近づくな　　　行こうと思えば　行く　
　行くのがしんどいから　　このまま逝きたい気もする　」
　お前が選ぶのならそれでも良いが　逝ったら帰れんぞ　
「うん・・・　　ありがと　」

にらめっこ

      
　車の下でにらめっこか
　　ネコさん　もう少し奥の方が　日が当たらなくて　楽なのでは
「近頃　車は　急に動き出すから　雨でも降らなきゃ奥には行かない　
　　好みと言うか　流儀と言うか　いろいろあるけどね　」

高速道路や

      
「道路と路肩と側溝は　見事な直線を描いて　高速道路を思わせる　」
　そんな　ええもんや　ないやろ　
　　「うん・・・　　せめて　そんな夢　見たいんや　」   
　　　すまん

夕涼みのはず

       
「夕涼み　　のはずが　　　
　地球が全部　サウナになったのかな　」

冷水パイプ

   
「何をしてるかって　？
　簡易水道の水が　冷たすぎるから　　ネコの体で　温めてやってるんだ　」

今は無き集落

   
「廃屋は　しばしばネコにやさしい　
　小さな集落だったようです　
　　キリシタンの隠れ里だったのかも知れませんね　
　　　今はもう　下ればすぐ街なのに　　それが　一層寂しく感じさせます　」

足元が見える

           
「怪しい奴が　うろついてるな　
　ましな服着たままで　地道も草地も　平気で歩く　
　靴が汚れても　気にせん　　足元が見える　言う事やな　
　それに　顔がカメラに負けとる　」

　　ほっといてくれ　野良ネコめが　
　　“ホームレスのくせに”　言うたら　　“家はちゃんとあるわい”　言う気やろ　

「頭の回りは　悪くないな　」
　

可哀想な私に

   
「後れを取ってしまった　　可哀想な私に　おっちゃん　何かおくれ　」
　わしに関係ないがな　　それに　ネコが喜ぶものなんか　何も持ってない

私も欲しい

        
「おいしそうやな　私にもおくれ　登って行くから　」

        
『無理やて　あきらめろ　　たった一匹やぞ　』
　「遅かったか　」
　　『早い遅いの問題やない　　そのうちおまえにも　ええことあるから　』

寝覚めの虫

       
「温かくなって　寝覚めの虫さんに　出会ってしまった　
　　有難いけど　虫さんごめんね　
　　　今年は少しは運が開けるのかも　」

もうちょっと

   
「日が陰り始めたか　寒いな　
　もう少し　もう少しだけ我慢して　　このまま寝よ　」

いややなあ

       
「後でごそごそ　せんといてよ　もう　気持ち悪い　
　　狭いトンネルなんやから　」